掲載日:

海外日本語教師経験談

中国 上海 大学(2022年) 養成講座終了後も教師としての勉強は続く

🧑 通りすがりの日本人さん・ 35歳

総評

  • 中国 上海 大学
  • 雇用形態:専任講師 *正規雇用
  • 期間:3年 (2019~2022年) *退職
  • 月収:20万円 (1万人民元) *現地で生活をするのに十分
  • 勤務時間:1日3時間・週4日勤務   *残業:残業という概念はありません。授業と不定期で授業以外の仕事もあります。例:コンテストの指導や日本語クラブの活動
  • 日本語教師養成講座420時間修了  ヒューマンアカデミー

大学卒業後、広告代理店に就職しましたが、激務に付いて行けず、1年で辞めることになりました。新しい仕事を探している中で、日本語教師という仕事を知りました。大学では多文化共生について学んだので、外国人と交流する機会が多く、日本語を教えた経験もありました。退職後、ヒューマンアカデミーに通い、日本語教師に要求される資格の一つ「養成講座420時間」を取得しました。

資格取得後は海外で働きたいと思い、養成講座の講師の方々や先輩に相談して、中国で働くことにしました。①漢字圏で漢字を教える必要がないこと②上級レベルのクラスも担当できること(非漢字圏は、初中級クラスが大半)③日本に近く、帰国しやすいこと、④常勤講師として働けて、生活に困らないだけの給料がもらえること。この4つが中国で働くことを決めた理由です。

日本語教師の資格を取得するまでに、様々な分野の知識を習得し、何度も模擬実習をしました。しかし、実際に教壇に立ってみて、それらの知識だけでは不十分だとわかりました。例えば、中国では1クラス20人以上の大人数クラスを担当することになります。養成講座で学んだ教授法は、クラス規模が大きくないことを想定した内容でした。養成講座では、日本語教師に必要とされる知識・技能を学ぶことができます。しかし、現場での経験を通してスキルアップをしていかなければなりません。

中国は日本語学習者が多い国なので、現地には様々な日本語教師のコミュニティがあります。同じような環境で働いている先生同士で相談したり、アドバイスをもらうことができます。

私が他校の先生からいただいたアドバイスの中で今でも忘れられないものがあります。それは、「直接法(日本語で日本語を教える方法)は練習を通して、学生に理解させなければならない。学生の母語で説明するより時間はかかるが、良い練習を行えば、記憶に残りやすいし、学習効果も高められる」です。

日本語教師として約10年の経験がありますが、今でもこの言葉を忘れず、授業の準備をする際は、指定の教科書をよく分析し、学生のレベルはもちろん、学習環境(クラス規模や学習頻度等)も考慮した自作の教材を作成し、使用しています。練習問題を作成する際は学生が既に習った語彙で日常生活での使用頻度が高いものを使うことや練習のバリエーション(基礎練習、ペア練習、ロールプレイ等)を増やすことで、単調な練習を繰り返す授業ではなくなります。

中国の大学では毎学期末、学生が教師を評価するのですが、幸いどの科目も良い評価を得ています。指定の教科書だけで学習する以上の価値を作れていることが自身の評価に影響していると思っています。

日本語教師として苦労したこと、戸惑ったことはありますか?

中国は世界一日本語学習者が多い国ですが、大学で日本語学科を専攻した学生は、第一希望の専攻が落ちたため、日本語学科に入学することになった学生が大半です。アニメや漫画など日本のポップカルチャーにまったく興味がない学生も多いです。そのため、日本のドラマやアニメを視聴覚教材として使用するのは避けています。ただ、映像教材は会話の授業で活用しやすいので、市販されている映像教材の中から、学生のレベルに合ったものだけ使用しています。

なぜこの大学を退職しましたか?

コロナ対策が厳しい大学で、夏冬の長期休暇も帰国が許されないだけでなく、学期中も行動規制があり自由に外出が出来ず、窮屈な生活を送ることに耐えられなかったので、辞めることにしました。
現在は、同じ上海にある他の大学で働いています。

給与

月収:20万円 (1万人民元)
現地で生活をするのに十分

中国の大学で日本語教師として働く場合、大学内にある宿舎に住むことになります。大学によって違いはありますが、基本的に生活費(電気ガス水道、インターネット代)は大学が負担してくれますから、普通に生活していけます。

ただ、中国は広く地域間の経済格差が大きいですから、勤務地域によっては副業等が必要な場合もあります。給与を重視するなら、大都市での勤務を勧めます。普段は大学内で生活するので、物価が高い大都市でも、それほど大きな影響を受けませんし、十分貯金ができます。

給与の詳細を読む...

給与

  • 月収:20万円

月収の内訳

  • 20万円
  • 年二回の旅行手当:4万円

待遇

  • 交通費

雇用形態

  • 専任講師 *正規雇用

勤務時間

  • 1日3時間・週4日勤務   *残業 残業という概念はありません。授業と不定期で授業以外の仕事もあります。例:コンテストの指導や日本語クラブの活動

長期休暇中の給与保証

  • 仕事はないが、給料は支給される

仕事のかけもち状況

  • かけもちしていない

授業形態・勤務スケジュール

スケジュール管理で大変だったことは?

普段はそれほど忙しくないのですが、学期末が近づくと、少し忙しくなります。期末試験の作成と採点、レポートの提出をしなければなりません。作業自体は複雑なものではないのですが、学生数が多いため、多くの時間と根気を必要とします。

学期末の業務を効率よく進める方法としては、学期中の空いた時間に期末試験を作成しておくことと、採点基準を明確にし、評価に悩む時間を作らないようにすることです。

授業形態やスケジュールの詳細を読む...

主なクラスの授業形態

  • クラス授業  1クラス25人

学習者層

  • 大学生

中国で日本語を教える前に準備すべきだったことは?

準備すべきだったものは、日本の雑誌です。中国の大学では、日本語コーナーというサークル活動のようなものがあります。日本人の先生も時々参加するのですが、学生と同世代の人が興味を持っていることについて紹介する時に、役立つと思います。ネットの情報は学生自身も調べられますが、雑誌なら、皆で読むことができるし、雑誌の内容をテーマとして、話を膨らませることができます。

準備しておいて良かったものは、担当する授業以外の教材です。以前、事前に聞いていなかった授業を急遽担当することになり、苦労した経験があります。現地で良い教材が手に入らず、中国語で書いてある本を解読しながら、授業を行いました。現地で手に入りにくい科目で、後々担当する可能性がある場合は日本から持って行ったほうがいいです。

教案作りで参考にしているサイトは?

  • にほんご教師ピック
    ・みんなの日本語の各課の語彙イラストがある。カラーでわかりやすいです。 ・授業の最初に、語彙の確認として使用しています。 ・授業でみんなの日本語を使用している先生におすすめ。
  • 毎日のんびり日本語教師
    ・実際に中国の大学で働いている先生が授業の準備に役立つ情報を発信しています。 ・授業の準備の最初の段階、アイディアが出てこない時に、このサイトを見ます。 ・中国の大学で働いている先生におすすめ。

教案作りで参考にしている書籍は?

  • 日本語教育のための誤用分析―中国語話者の母語干渉20例 対象: 中級
    ・中国人日本語学習者が間違いやすい日本語と間違える原因について書かれています。 ・学生が間違いやすい語彙や文法は授業の前に把握しておき、間違えた学生がいた時に、訂正といっしょに間違えやすい原因も説明しています。 ・中国で中級以上のクラスを担当している先生におすすめ。
  • ONOMATOPE The Fantastic World of Japanese Symbolic Words 対象: 中級
    ・オノマトペの説明が英語訳とイラスト付きでわかりやすく分類されています。 ・言語学の授業でオノマトペを扱う時や会話の授業でオノマトペについて説明する時に使っています。 ・英語圏で教えている先生と似ているオノマトペの説明が難しいと感じている先生におすすめ。

就職活動

どのように就職活動を行いましたか?

就職活動はインターネットで行いました。日本語教師の集いというサイトで求人を見つけ応募しました。

履歴書は日本語でも大丈夫ですが、中国語版も用意したほうがいいと思います。私が上海の大学に応募した時は、20人以上応募者がいたそうで、書類選考に時間がかかりました。その後の面接から採用の連絡が来るまではすぐでした。

書類選考が占める割合は大きいようです。他にも3校に応募していましたが、大都市で働きたいと思い、上海の大学にしました。採用の連絡をもらったら、すぐに契約書を確認したほうがいいです。求人の内容と違う場合があります。

面接ではどのようなことを聞かれましたか?

面接は志望動機、自己PRなど基本的なことしか聞かれません。相手は面接のプロではありません。日本語の先生です。自己PRで日本語教育における自分の得意なことや専門分野について話したらいいと思います。それから、面接中に担当する授業や授業以外の仕事なども聞いておいたほうがいいです。それを聞いたうえで、これまでの経験等を話すことができれば、自己PRになります。

現地で日本語教師の需要はどのくらいありますか?

中国ではコロナ以降、日本人教師が不足していて、大学や学習塾等で日本人教師を募集している求人が多く見られます。経験や学歴を問わず、中国で就労ビザが取得できるだけの条件を満たしていれば応募できる求人もあります。日本語教師としての最初の一歩としては良い国だと思います。

就職活動で参考にしたウェブサイトは?

  • 日本語教師の集い
    仲介業者も利用しているため、求人数は多いです。
  • 日本村
    国別に求人情報が整理されていて、わかりやすいです。また、仲介業者ではなく、募集している学校が直接求人を出しているので、早く連絡がつきます。

国選びで重視した点

  • 日本との距離
  • 日本語教師の需要が高い
  • たまたま条件に合う求人があった

現地における日本語教師の需要・将来性

  • 人気があり、一定数の学校で求められている

就職 教育機関選びで特に重視した点

  • 学生の学習意欲の高さ
  • 学習者数
  • 利便性の高い場所

応募時に必要とされた資格

  • 日本語教師養成講座420時間修了
  • 日本語教育能力検定試験合格
  • 大学 日本語教育主・副専攻
  • 日本語教育経験
  • 大学卒業

就職 選考方法

  • 書類
  • 面接
  • 自己紹介ビデオ

面接方法

  • skypeやzoomなどのインターネットツールを使用して面談

日本語教師全般に関する質問

「日本語教師をやってよかった!」どのような時に実感しますか?

駐在として赴任している方より給料は少ないですが、安定した収入があるのは、この仕事の良さだと思います。コロナ禍でも、オンラインで授業を行うことで通常通りの収入がありました。

海外で働く以上、何が起こるか予測不可能な面もあります。だからこそ、学生さえいれば仕事があり、一定の収入が得られる教師という仕事を選んでよかったと思いました。

日本語教師を辞めたいと思ったことはありますか?それはどうしてですか?

会話の期末試験の時に、片耳にイヤホンをつけて、日本語が上手な友達と通話しながら試験を受けた学生がいました。私の質問に対して返答が遅い事やイヤホンを隠すようにしている仕草に不審に思い、不正行為を見つけることができました。

大学には試験で不正行為をした学生は、その学期の他の科目も不合格になる規則があるのですが、学科の主任が大学に私に落ち度があったと報告し、その学生は何の処罰も受けませんでした。この出来事があり、給与を上げるので、契約更新をしてほしいと言われても、更新を断りました。

中国で日本語教師を目指す方へ心構え・アドバイス。

外国では不条理な出来事に遭遇することが多々あると思います。特に、反日教育を行っている中国では何かあった時に、味方になってくれる人がいなければ、乗り越えることが難しいかもしれません。現地の日本人コミュニティで繋がりを作ったり、現地の人で信頼できる友人を作ることをお勧めします。

今後どのような日本語教師になりたいですか?

2019年以降、コロナの影響で厳しい行動規制が行われた中国では、教育の現場でICTの活用が普及してきています。タブレットなどのデジタル機器を授業で使うことができる技能があれば、大きな長所になると思います。

私は今秋から大学院で教材開発について研究する予定です。日本語教育の業界にもデジタル化の波が押し寄せています。ICT、e-ラーニング、デジタル教材などの知識・技能を有する教師がこれからの時代に必要とされる人材ではないかと思います。

アジアの国・地域別 経験談

当サイト人気スクール 420時間養成講座