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海外日本語教師経験談

イギリス 地方都市 大学(2022年) 人種バラバラ16〜80歳が同じ教室に!

👩 茶黒猫さん・ 30代

総評

  • イギリス 地方都市 大学
  • 雇用形態:非常勤講師
  • 期間:9年 (2013~2022年) *休職中
  • 月収:約13万円 (約780GBP) *それだけでは生活は難しい
  • 勤務時間:1日1コマ・週3日勤務   *残業:残業なし。たまに会議あり。その時は時給で£20(3000円ちょっと)程度。

日本語教師になったきっかけは、留学先のイギリスの語学学校で仲良くなった日本人の方がたまたま日本語教師で、話を聞いて面白そうだと思ったから。元々日本語教師は目指しておらず、日本語学科卒でもなく、日本では販売業に就いていました。

”幸運が重なった結果”、海外の大学の日本語教師になれました。

2012〜3年頃の話になります。
当時、留学先で知り合った男性との結婚を考えており、
「結婚してこのままイギリスに住むことになった場合、私に何の仕事ができるのか」と考えていました。

その時に友人から聞いた「日本語教師」という職業を思い出し、「日本語教師になるにはどうすればいいのか」をネットで調べ、日本語教師養成講座の通信課程の1つに申し込みました。

講座開始後、しばらく経ってから、上記の友人から連絡が入りました。
彼女は当時、近所の大学の生涯学習課(オープンコース)で日本語を教えていました。

「近々職場で日本語教師の欠員が出る予定なんだよね。で、養成講座を受講中で、結婚していてビザの心配がない日本人の友人が近所にいるって話をしたら、ぜひ紹介して欲しいって言われたんだけど、…興味ある?」

とんでもないチャンスが舞い込んできた瞬間でした。

「未経験かつ養成講座も途中」という状態でありながら、毎週「見習い」として大学でベテラン教師の方の授業を見せていただき、それに付随した事務所での作業全般を教わることになったのです。

その数ヶ月後、無事に採用が決まり、初級クラスを受け持ちました。
初日は事前に何時間もかけて作った授業計画書に沿いながら、心臓バクバク、手は汗だく。改善点だらけのフィードバックをベテラン教師の方からいただきました。

スタートは散々。最初の1年ただただ精励恪勤。一生懸命やっても反省続きの日々。自分には向いていないんじゃないかと思ったことも数回。


そんな私も少しずつ経験を積み、気付けば最初に教壇に立った日から9年。完全初級〜中上級レベルを担当するようになりました。
パートタイムで週3日、家庭と両立しながら続けてこられました。

クラスは最大16人。16歳以上でキャンパスに通学可能な全ての希望者が対象です。学習者は年齢も国籍も人種もバラバラ。10代〜80代くらいの方までいます。
地元民が多いですが、その他ヨーロッパ系も多く、アジア系は少数派です。

アニメ大好きな一部を除いて、日本に関する知識はゼロなのが当たり前。
「日本語が話せるようになれば中国旅行に行っても困らない」と本気で思っている人も。

「日本語にはひらがな、カタカナ、漢字という3つの文字が存在します」と説明すると、
「3種類文字があるって言うけど、普段話す言葉に使う文字はどれなの?」なんて質問を受けます。

全員を椅子から立たせてお辞儀の練習をします。「いただきます」をしてしまう人が1人はいます。

レベルに応じたカリキュラムが概ね決まっているので、それに沿った教案を作成します。
新出文法の導入方法を考えてPowerPointにまとめ、プリントを作ります。

生教材が手に入りにくいのは不便ですが、スーパーのチラシや公共施設の案内をネットで画像探索してダウンロードします。日本語チームは私の他に5人。教科書・参考書を始め、使用したプリント類の多くは事務所内共有スペースに保管してあり、自由に手に取ることが可能となっています。

働き始めた当初は授業時間の何倍も準備に時間をかけ、慣れるまでは何度も挫折しそうになりました。でもその分「やりがい」はあります。

今は長く続けていきたいと思っています。

日本語教師として苦労したこと、戸惑ったことはありますか?

最大で16人、年齢も母語もバラバラなクラスなので、できる人とできない人の差が激しいことがよくあります。

アジア系学習者はヨーロッパ系と比べてやはり習得が早い感じがします。若い学習者と比べて年配の学習者はどうしても習得がゆっくりな傾向が強くなります。

コースの進み具合は適切であるか、落ちこぼれている人がいないかと常に気を配りながら授業をしなければならないので精神的にもかなり気を遣います。

例えば、プリントやペアでタスクをしてもらっている時に、教室内を回って個々のおおよその習熟度を確認、「多くの人が言いにくそうにしている単語」「間違えている人が多い問題」があれば全員で一緒に確認します。

また、ヨーロッパの方は日本人より時間を守らない人が多く、遅刻率も高めです。
前回の授業の復習ウォーミングアップとして授業の初めに10-15分間の時間を確保していますが、遅刻した故にウォーミングアップを逃し、新出文法で既出文法の知識が必要となり、そこで躓いてしまう人も少なからずいます。

しっかり宿題をして、家で復習できている人であれば問題ありませんが、「遅刻多い」「宿題しない」そして「仕事(学校)が忙しいんだ」と言い訳する人の多くは途中でドロップアウトしてしまいます。

給与

月収:約13万円 (約780GBP)
それだけでは生活は難しい

日本国内での日本語教師と比べて時間給は高いですが、その分物価も高いです。日本以上のインフレで、市バスの運賃は10年前と比べて1.8倍になりました。給料も少しずつは上がってきたものの、9年前と比べてもせいぜい1.2〜1.3倍程度です。

私を含め、同僚の語学教員(日本語に限らず)のほとんどが女性です。フルタイムで働くパートナーと暮らす、日本でいう「兼業主婦」が8割以上を占めているように思います。

イギリスでは通常の雇用者にはフルタイム、パートタイム関係なく交通費が支払われることはほとんどありません。ただし、パートタイムであっても産休育休手当の対象となります。

給与の詳細を読む...

給与

  • 月収:約13万円

月収の内訳

  • 1コマ:120分(準備時間込み)・日本円で約1万円

待遇

  • 現地語学レッスン受講
  • 賞与:稀に大学の職員全員に対するボーナスが支給されますが、不定期な上、金額もバラバラです。何十万円も入ることはなく、日本円で1万〜数万円程度がほとんどです。

雇用形態

  • 非常勤講師

勤務時間

  • 1日1コマ・週3日勤務   *残業 残業なし。たまに会議あり。その時は時給で£20(3000円ちょっと)程度。

長期休暇中の給与保証

  • 勤務している教育機関で給与が発生する仕事がある
  • 一部補填される

仕事のかけもち状況

  • かけもちしていない

授業形態・勤務スケジュール

スケジュール管理で大変だったことは?

仕事だけに集中できていた頃は特に問題はありませんでしたが、子供が生まれ、子育てと仕事を両立するようになってからは大変になりました。
その頃から、上のレベルのコースも任されるようになってきたので、準備に時間がかかるようになりました。

帰宅したらその日のうちか翌日の朝までには宿題確認→丸つけ、日曜日に夫に子供を見てもらっている間にPowerPointとプリントの準備をすると決め、後回しにしないことを心がけました。

授業形態やスケジュールの詳細を読む...

主なクラスの授業形態

  • クラス授業  1クラス6〜16人

学習者層

  • 学生
  • 社会人
  • 幅広い年齢層

イギリスで日本語を教える前に準備すべきだったことは?

「折込チラシ」は大活躍です!初級で数字を勉強したばかりの生徒たちに、ペアになって「これはいくらですか」と聞き合う練習をさせます。日本のスーパーにはどんなものが売っていてどれくらいの値段なのか分かるのでウケがいいです。海外では絶対に手に入らないものということで、持っていくと重宝します。

中級以上であれば「博物館・美術館のパンフレット」もおすすめです。タスクが書かれたプリントを渡し、必要な情報をペアと一緒に読み取ってもらいます。

教案作りで参考にしているサイトは?

  • みんなの教材サイト
    日本語教師の教材共有場所です。 例えば私のクラスで「病院に行く」という場面を学ぶとします。 「みんなの教材サイト」内で「病院」と検索すると、すでに同じようなトピックを教えたことのある、世界中の日本語教師の方が使ったPPTやタスクシートなどを閲覧することができます。 著作権上、他の大学や教育機関の名前が入っていて、そのまま使うことはできないものも多いのですが、自分の授業スライド作りの参考になります。
  • まるごとPlus
    初級レベルで実際の使用シーンを見せるのに使っています。 英語の字幕付きの動画なので、完全初級の方でも楽しみながら見ることができます。 完全初級クラスの場合、日本に旅行で行ったことがある人が16人中3人〜5人程度です。語学のためというより、実際のネイティブ会話を聞かせることを目的に見せます。

就職活動

どのように就職活動を行いましたか?

知人からの紹介です。就職活動は一切行っていません。
参考になるようなアドバイスができずに申し訳ありませんが、日本語教師に限らず、自分から動かなくても人伝でいい機会がふと舞い込んでくることがあるので、人との出会いを大切にしてください。

面接ではどのようなことを聞かれましたか?

・大学で何を専攻していましたか?
・最近結婚したご主人の職業は?
・日本語を教えたことは?
・雇用にあたって英語で推薦状(Reference letter)を書いてくれる有職者が2人必要だけど大丈夫?

10年近く前のことなので、うろ覚えです。生涯学習コースのマネージャーの外国人女性と日本語のリードチューター(日本人)と私の3人で行いました。
私の場合、すでに採用が決まっていて「形だけの面接」でしたので、かなりラフで10分くらいで終わったと思います。

イギリスで大学院に進学したり、就職したりする場合、推薦状(Reference letter)を求められます。
親族以外の有職者で、自分をよく知る人で英語で推薦状が書ける人であれば基本的に誰に頼んでも構いません。一般的に、社会的地位の高い職に就いている人や自分が就く予定の業種に近い職に就いている人を選ぶ人が多いです。過去に日本語教師歴がある人であれば、働いていた日本語教育機関の上司からの推薦状が求められるかもしれません。

私は、語学学校に通っていた時の英語教師の方と、プライベートレッスンで日本語を教えていた小学生の男の子のお母さん(市役所職員)に頼みました。

現地で日本語教師の需要はどのくらいありますか?

完全初級コースのクラスが毎回満席になっているので、一定の需要はあるのだと思います。
JLPTの試験会場になっている大学で教えているので、試験監督も何度か経験しました(コロナ前)が、受験者が激増している様子はありませんでした。

需要は下がることも上がることもなく横ばい状態を何年もキープしているように感じます。
近年はビジネスのために日本語を学びたい人より「漫画・アニメが好き」「日本料理が好きで何度も日本に行っている」という趣味の一部として学習する人が多い感じがします。

就職活動で参考にしたウェブサイトは?

  • Indeed
    日本語教師に関わらず、一般的にイギリスでの求人検索に使用されているサイトです。(一部の高いスキルを要する求人以外はすでに就労ビザを持っている人を対象としたものが多いです。)

就職活動で有効な手段は?

  • 『紹介』
    今一緒に働いている日本語教師の方は、1人を除いて全員内部からの紹介で入りました。 その1人の方も、以前同じ大学の別の部署で日本語を教えた経験がある方なので、半分くらいは「紹介」です。

国選びで重視した点

  • その国にもともと住んでいた
  • その国の母国語が得意

現地における日本語教師の需要・将来性

  • 一部に人気があり、数は少ないが求められている
  • 専門性や高学歴が求められる傾向にある

就職 教育機関選びで特に重視した点

  • 知り合いの紹介・誘い

応募時に必要とされた資格

  • 英語能力
  • ビザの取得
  • 大学卒業 (私が採用された当時は4大卒で大丈夫でしたが、現在は修士号以上が望ましいと記載されており、最近採用された方は全員修士号か博士号を持っています)

就職 選考方法

  • 書類
  • 面接
  • 模擬授業 (私が採用された当時はありませんでしたが、現在は書類・面接合格者に模擬授業が課せられているそうです)

面接方法

  • 現地にて対面で実施

日本語教師全般に関する質問

「日本語教師をやってよかった!」どのような時に実感しますか?

できなかったことができるようになる瞬間を目の前で見ることができること。
日本語だけでなく、折り紙やすごろくといった伝統文化を通じて、日本の良さを海外の方に教えてあげられること。

先日も「先生、JLPTの結果が来ました。N2に合格しました!次はN1目指します!」というメールをいただきました。生徒が目標を達成でき、感謝されると感極まります。

日本語教師を辞めたいと思ったことはありますか?それはどうしてですか?

16歳以上の全ての市民を対象とした生涯学習課(オープンコース)ということもあり、本当に色んな方が来ます。中には性格的に合わないと感じる方もたまにいて、教材や教え方に対するクレームを入れられたことが一度ありました。

オープンコースはどんなバックグラウンドを持つ方に対しても門戸が開かれており、誰でも気軽に始められるという利点がある一方、特に初級レベルでのドロップアウト率が高く、最低人数(基本的に6人)に満たなければ大学側にコースをキャンセルされてしまうため、ストレスで辞めたくなったこともありました。

私の場合、他にも一緒に働いている日本人の方が複数いるため、相談したり悩みを聞いてもらえたりと助け合える環境が幸運にも整っていたことが良かったのだと思います。また、日本語教師として現場で試行錯誤しながら経験を積んでいくことで徐々に教え方スキルも上がっていきました。
更に、「色んな人がいるんだ」と寛容な性格になっていった気もします。

イギリスで日本語教師を目指す方へ心構え・アドバイス。

検定に合格しても、420時間の講座を修了していても、日本語学科卒であっても「日本語教師」というのは常に学び続けることが求められる職業です。

イギリスやヨーロッパで日本語を学ぼうとする層は、特に若い世代だと「漫画・アニメが好きだから」というのがほとんどです。旅行に行ってみたいという人が多く、逆に「ビジネスのために勉強したい」という理由はここ20〜30年で激減したとベテラン日本語教師の方から聞きました。

「先生の好きなアニメは?」「日本語の勉強になる、先生のおすすめアニメ(ドラマ)はありますか?」とよく聞かれるので、生徒に好かれる教師になるために生徒の趣味に合わせるというのも一つの手だと感じます。

今後どのような日本語教師になりたいですか?

より多くの生徒に「先生の授業は楽しいです!」と言ってもらえるような日本語教師になりたいです。

休職して1年間日本に滞在することにしたので、近所の日本語教室にボランティアに行ってみました。
イギリスでは初級は媒介語の英語で説明しながら授業を進めていきますが、近所の日本語教室では初級でも直接法で教えており、どのようなアプローチをしているのかを見学させてもらいました。

1年間ボランティアさせていただき、「これはいい!」と思える教え方やアクティビティがあれば、戻った時にどんどん取り入れて、よりたくさんの人に楽しみながら学んでもらえる授業ができる日本語教師になりたいです。

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