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海外日本語教師経験談

フランス 日本語学校(2009年) 失敗や苦労も含め、いろいろな意味で挑戦の日々

👩 安藤トワさん・ 30代後半

総評

  • フランス 日本語学校
  • 期間:4年 (2005~2009年) *退職
  • 月収:10~15万円 (800~1,300ユーロ) *それだけでは生活は難しい

フランスへ渡る以前にも、子供時代を含め、複数の国での居住経験がありましたので、外国で生活する事自体にはほとんど不安がありませんでした。

それでもなお、初めて「ホームシック」のようなものを経験したのがフランスです。フランス語が全くできなかったというのもありますが、家を借りるにしても労働許可証を発行してもらうにしても、とにかくなかなか一筋縄では行かなくて苦労しました。(今では全て笑い話ですが)

また、語学学校での日本語の授業は夜間帯であったため、郊外に住んでいた頃は職探しにだいぶ苦戦しました。授業が終わった時間帯から、郊外へ向かうメトロや電車に女性一人で乗るのは危険すぎるので雇えないという理由からでした。

そのため、ほどなくしてパリ市内中心部へ引っ越し、なんとかはじめの仕事を得る事ができました。生活していくために何校か掛け持ちをしましたが、それでも貯金のできるような余裕はありませんでした。待遇は厳しかったですが、実に色々な経験をさせてもらえました。

初めて幼稚園での授業を担当したとき、もちろん予定していた授業にはまったくなりません。それどころか私は「日本語を教えに来た」はずなのに、しょっぱなから「生徒のおむつを替えている」という現実に、正直うろたえました。

これでやっていけるのか?そんな不安を抱えながらも、数ヶ月授業を担当していると、徐々に子供達とも信頼関係が築いていけたようで、いつの間にか私を見かけると「せんせい!こんにちは!」と子供達が駆け寄ってくれるようになりました。

1年をかけても、幼稚園児に教える事のできた日本語は実にわずかなものでした。けれども、生徒本人だけでなくそのご家族や周りの人たちも、日本語や日本という国そのものに興味を持ってくれたこと、その広がりを肌で感じて、言葉だけにとどまらない日本語教育の形をそこに見た気がしました。

今では自分が母親になったということもありますが、幼少期における語学教育に非常に興味があります。幼稚園での日本語の授業の経験がなければ、興味を持たなかったジャンルかも知れません。

フランスでの日本語教師経験は、失敗や苦労も含め、いろいろな意味で挑戦の日々でした。そのことが、さらに私にとって日本語教育のやりがいと面白さを教えてくれたと思います。

また、自分のスキルを自分から積極的に売り込んでいくことの必要性も学びました。日本人にはなかなか難しい事だと思いますが、それをしなければ仕事を得られなかったであろうし、なによりその結果自分で職を得られた事は、現在の自信にも繋がっています。

日本語教師として苦労したこと、戸惑ったことはありますか?

授業よりも生活面での苦労の方が非常に多かったです。あえて授業における苦労点をあげると、アジア圏の学生さんと比べると、趣味で日本語を学んでいる人が多かったので、宿題等はまずやってこない、教科書を持ってこないという人が大人でも結構いました。

また、日本の百円ショップのようなものがなかったのでオリジナルの教材づくりなどは想像以上に予算がかかりました。また、日系書店がありますが、日本書籍の価格は日本国内の倍ちかい値段がついていました。

もう一つはストの多さです。ことあるごとに公共の交通機関がストを起こすので、朝起きたら、出勤手段がない!なんていうことが多々ありました。幸い徒歩でもなんとか通える場所に住んでおり、早めに出る事で対応出来ましたが、そういう日は、生徒さんの方も全然来ていなかったりして、学校へ行ったけれど授業はしなかったという事もありました。

生活面では、書類の手続きがとにかくトラブル続きで、いちいち腹をたてていては身が持たないほどでした。正式な必要書類を全てそろえて労働許可証の発行手続きにいっても、書類を紛失されたり、期日を守られなかったり、記載事項が間違っていたり、なんども訂正に足を運びました。保険証なども、何度申請してもできあがらず、あきらめたころにひょっこりできあがり、早くとりにこいと連絡がありました。

また、国際郵便はまず届きません。というと大げさのようですが、日本のように自宅のポストに必ず届くと考えていると、届かない事の方が多く気が滅入ります。事前に分かるものであれば、かならず送り主に送った日や小包番号などを確認して、自力でネットなどをつかって追跡する。到着しても自宅に届くとは限らず、最寄りの郵便局で放置などという事も多々ありましたので、自分からとりにいく。

そうするとたいていちゃんと着いています。最終的に「万が一届いたらラッキー」ぐらいの心構えでいると、イライラせずに過ごせました。

授業形態やスケジュールの詳細を読む...

主なクラスの授業形態

  • クラス授業  1クラス3~20人ぐらい
  • プライベートレッスン
  • 企業研修

スケジュール

  • 日本語語学学校:平日18~22時/土9~18時/日・祝 休み (大学生や社会人の方が対象となるので、基本的に授業は全て夜間および土曜日でした。場合によっては主婦クラスなどもあり午前中に授業のある曜日もありました。)
  • 現地高校:水13~15時 (フランスの高校にはバカロレアという卒業試験がありますが、その中の第2、第3外国語で日本語を選択する事ができます。基本的な授業は週1回の2時間でしたが、バカロレア直前の時期には週に何度も補習授業を行い、実際の試験に備えました。)
  • 現地校(幼年部ー中等部):平日9~15時 (多言語教育の方針をとる現地私立校にて日本語の授業を担当、国語の教科書を用いた国語に近い授業。曜日によってコマ数は様々)
以上、主なものをあげました。総合して、月~土は毎日朝から晩まで授業が入っており、会議などが日曜に入ると、全く休みのない月もありました。

フランスで日本語を教える前に準備すべきだったことは?

日本で買っていった方が圧倒的に安いもの、文房具や教材、折り紙などは現地調達するとかなり費用がかさみますので、日本から船便でもいいので送るとよかったと思います。ただし、絶対に現地では手に入らないものというものもないので、そこまで困る事はなかったです。

フランス語は本当にひどい状態でフランス入りしました。ただ、それも自分の意向だったのでもっと勉強しておけばよかったとは思いませんでした。もちろんフランス語が堪能であれば、生活面での苦労は軽減されたかもしれませんが、特にフランス語の発音は日本人にはあまり馴染みのない音が多かったので、事前に日本で勉強していくより現地で吸収した方が効率がいいような気がしていました。

音声教材や動画教材も、今ではインターネットで比較的簡単に手に入るので、事前にさほど準備していく必要はないでしょう。パソコンとネット環境は早めに整えた方がよさそうです。

就職活動

この日本語学校で働くきっかけ・決め手は?

すでに日本語教師として働いておりましたが、もっと別の国で、異なる文化圏で働いてみたいという気持ちが強くなっていました。そんな時にフランスのワーキングホリデー(vacances-travail)ビザについて知り、ダメ元で応募したところ、なんとか権利を得ることができ、フランス入りしました。

フランスを選んだ理由の一つに、「直接法」での日本語教育の経験をさらに積みたかったというところがあります。そのために、英語圏は選択肢に入れていませんでした。(英語圏でももちろん直接法は主流な教授法だと思いますが。)

また、ゼロから自分の力が通用するかどうか確かめたかったというのもありました。そのために自分が勉強した事のない言語を母国語とする国で、できれば先進国での教師経験を積みたいと考えておりました。

現地で日本語教師の需要はどのくらいありますか?

日本語教育はそれなりに盛んであると思います。とくにヨーロッパの中でも最もアニメ文化の浸透した国だと思いますので、アニメやゲームをきっかけに日本語に興味を持った人が非常に多いです。

日本語学校も大手をはじめいくつもあります。また、日本語学校だけでなくオプションとして日本語を取り入れたいと考えている幼稚園や、小学校、高校、それに専門学校などもあり、仕事の数自体はそれなりにあると思います。

ただし、フランス(特にパリ)に憧れてやってくる日本人がとても多いのもまた事実で、職業ビザがおりにくい国である事から多くの日本語教師がワーホリビザもしくは学生ビザで働いていました。

「ただでもいいからフランスで働いてみたい、お金払ってでもパリで働いてみたい」という方も非常に多く、総じて日本語教師のお給料は、仕事量にくらべて低く設定されているような気がしたのは否定出来ません。

この日本語学校で求められる資質や資格、経歴や語学レベルは?

どこの国でも言えることですが、その国での生活に適応出来る事は最低限必要な要素だと思います。日本語教師としてその国へ行ったからといって、日本語の授業だけしていればいいというのではありません。

家探し、職探し、生活面など全てにおいて自己主張ができないと難しいなぁという印象があります。逆に言うと、自己主張がうまく通れば、いろいろな事がスムーズに進みます。

なんとなく日本語を教えたいなぁという気持ちではなく、どこで、どんな生徒に、どのように日本語を教えたいか、そして自分ができる事は何か、いくらぐらいで授業ができるのか、を明確に提示する事ができると、しっかりと受け入れてもらえます。

また、日本語教師以外の社会人経験や、趣味/特技も非常に生かされます。ビジネスマナーや、日本での就職活動などに興味のある生徒さんも多いですし、芸術方面に関心の深いお国柄である事から、日本舞踊や墨絵、またマンガを描く技術なども、重宝すると思われます。

日本語教師全般に関する質問

どのような経緯で日本語教師を目指しましたか?

もともとは発展途上国での国際協力の現場で働いており、現地での空き時間に要望があって日本の歌や紙芝居を披露したり、簡単な日本語会話を教えたりしているうちに、日本語を教えることそのものに興味を持ち始めました。

興味を持って勉強しているうちに、大学時代の恩師より、本腰を入れて日本語教師をやってみないかというお誘いをいただきその話に飛びついたのがきっかけです。

途上国開発支援の仕事は大変やりがいがあり、自分が本当にやりたかった仕事ではありましたが、将来の事を考えて、どこの国へ行っても、もちろん日本国内でも生きていく事ができる仕事をしたいと考えておりましたので、日本語教師を本職にしていく道を選びました。

「日本語教師をやってよかった!」どのような時に実感しますか?

なんといっても生徒の日本語力の上達を実感したときです。初めて出会ったとき、あいうえおはもちろん、「おはよう」さえ知らなかった生徒が、2年後にはスピーチ大会で優勝するまでの実力をつけていました!表彰台に上がる生徒を見て、肩が震えるほど感動したのを覚えています。

また、生徒さんの多くが、日本人以上に日本を愛していてくれること。もちろんなかには、仕事の関係などでいやいや日本語を勉強しているひともいますが、たいていの場合、日本のなにかしらを好きになってくれて、そこから日本語を学ぼうという気持ちをもって学びにきています。

私自身では知る事のなかった日本の良さを、生徒さんを通してたくさん教えてもらいました。

日本語教師を辞めたいと思ったことはありますか?それはどうしてですか?

弱音を吐いた事はありますが、辞めたいとまでは思った事がありません。むしろ一生続けたい仕事だと思っています。

初めて日本語教師として本格的に配属された学校で、日本での教員の仕事を定年で退職した後、日本語教師の資格を取って現地で教壇に立っている70代の先生がいらっしゃいました。その先生の口癖であった「生涯、現役教師」という言葉が、今も心に残っています。

生きていくためのメインの仕事であるかなしかは別として、私はずっとこの仕事を続けていくつもりでいます。

フランスで日本語教師を目指す方へ心構え・アドバイス。

自分が何をしたいか、明確にビジョンがあると道が開かれやすいと思います。そして、チャンスだと思ったら迷わず飛びつく事です。フランス(パリ)で働きたいと思っている人は本当にたくさんいます。その中で、職を得るためにも、自分を雇うメリットというのを、的確に雇い主にアピールする必要があります。

フルタイムの日本語教師の職(大学の専任講師など)は、非常に限られている上、フランス国内での学士号や修士号が必要になったりしますので本気でフランスで日本語教師のみで生きていく事を考えるならば、まずフランスで学位を取ることから考えたほうがいいかもしれません。

その一方で、小さな語学学校などはそれなりの数がありますので、まずどこからでもいいので一つ職歴をつけておくと、その後の就職活動に有利になると思います。

今後どのような日本語教師になりたいですか?

ありがたいことに、縁があって担当生徒は実に3歳から70代までと、様々な年代の方々と接することができました。年代が違えば、目標も違うしアプローチの仕方も変えなければなりません。

その中で、まだ母国語が確立していない状態の子供達に日本語を教える事の難しさと面白さを知りました。幼いうちから複数言語を学ぶ事は賛否両論ありますが、その時期だからこそできる事や、その可能性に惹かれています。

子供の成長を妨げる事なく、あくまでプラスの要因になるように、日本語を導入していきたい。そのための教材や方法を研究しながら子供のための日本語教育についてもう少し突き詰めていきたいと思っています。

最後にパリでの生活の写真をいくつか。

授業の合間にカフェで休憩。エスプレッソはかなり濃いのでたいていカフェオレ。

落ち込んだ時などはセーヌ沿いを散歩。なんとなく心が晴れる。

アパルトマンの小さなキッチン。天井が斜めなので首を傾げながら料理する。

フランスのファーストフードといえば、ちっとも提供はクイックではないQUICK。

大人も子供も思わず足を止める、かわいらしいショーウィンドウ。

一度食べたら病み付き!エスカルゴのグリル。バターの香りがたまらない。

週末でも珍しくあいているベルシービラージュのクールサンテミリオン。雑貨や本、カフェやレストランが建ち並ぶ楽しいお散歩コース。

パリの石造りの建物は築年数100年越えも多く、床や螺旋階段などはたいていすり減ってまっすぐではない。エレベーターがあっても手動だったりする。

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