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海外日本語教師経験談

ベトナム 北部 技能実習生研修センター(2025年) 教える相手、選ぶ職場で広がる世界

👩 たんぬさん・ 37歳

総評

  • ベトナム 北部 技能実習生研修センター
  • 雇用形態:常勤講師 *非正規雇用・フルタイム
  • 期間:1.5年 (2024~2025年) *現在も勤務中
  • 月収:20万円 (3600万ドン) *かなり生活に余裕がある
  • 勤務時間:1日 8時間・週5日勤務   *残業:残業なし
  • 日本語教師養成講座420時間修了  東京中央日本語学院

元々海外を旅行したり、外国人と話したりと国際交流が好きでした。

社会人になり、自分の理想とする、旅行や外国に関わる仕事に就くことができて、充実した社会人生活を送っていました。
しかし、今度は私が誰かの夢を叶える助けとなるような仕事がしたいと考えるようになりました。これまでの海外旅行で何度も現地の方と交流したり、SNSで外国人とのメッセージのやりとりをする中で、日本に興味や関心を持ってくれる外国人がたくさんいることを知りました。
そこで私が日本語を教えることで、夢を持って日本に来てくれる外国人の力になりたいと思い、日本語教師を志しました。

現在はベトナムで働いていますが、以前はタイの日本語学校で常勤日本語教師をしていました。
そこではお子様からビジネス日本語まで様々なレベルの学習者に日本語を教えていました。
初めての海外生活ということもあり、苦労もありましたが、たくさんの経験を積ませていただきました。

しかしながら、当時勤めていたタイの日本語学校は、お給料や待遇が思ったより充実していませんでした。例えば、有休が好きな日に取得できなかったり、お給料が給料日に支払われなかったり、募集要項と実態に差があったりしました。また、学習者の範囲も幅広く、日本で働きたいという学習者もいれば、趣味で勉強したい学習者、親から強制され仕方なく習っている学習者等、学習意欲の差もまちまちで、対応に苦慮していました。

現職の研修センターへ転職しようと思ったのは、もっと日本語を意欲的に学びたい学習者とより良い労働環境で働きたいと思ったからです。そのため、雇用形態や待遇、学習対象者等も注意深く調べ、転職活動をしていました。

現職を選ぶ決め手となったのは、雇用形態と待遇、また学習対象者が技能実習生ということで、意欲的な学習者が多いのではないかと思い、転職することにしました。

現職では、今年で2年目になります。
専任日本語教師としてクラスの担任をしており、技能実習生を対象に日本語を教えています。彼らはJLPTに合格しなければ日本へ渡航できません。このような勉強意欲のある学生を教えることができ、満足しております。

ベトナム人に日本語を教えるのに苦労する点は、日本との生活習慣が異なることです。
例えば、ベトナムでは最近首都圏の一部区間にメトロができましたが、まだまだ身近ではありません。そのため、「みんなの日本語」やJLPT対策で電車に関する問題が出題された際、電車の種類(急行・各駅停車の違い)や乗り換え方法を説明する問題は、なかなか回答をイメージするのが難しそうです。

私は日本語教師の仕事に対して、もちろん知識や経験も大切ですが、まずは自分が積極的に学生とコミュニケーションを取り、楽しんで授業をするように心掛けています。ベトナムでは挨拶の代わりに「ご飯、何食べた?」等と言ってから会話が始まります。私も学生と授業とは関係のない簡単な質問をしたり、私も学生にベトナムのことを色々質問したりしながら、お互いの理解を深める時間を大切にしています。まだまだ完璧とはいきませんが、こうすると、学習者も心を開いてくれやすいと感じています。
この仕事は、学生の成長が目に見えて感じられるところに大きな魅力とやりがいがあると思っています。

日本語教師として苦労したこと、戸惑ったことはありますか?

何度も復習できるように、問題集をするとき、答えはノートに書いてほしいのですが、指示をしないと直接解答を書き込んでしまうので、ノートに答えを書くように繰り返し伝えています。またテストでは鉛筆で答えを書いてもらっていますが、現地の消しゴムの性能が悪いので、答えを何度も消したり書いたりを繰り返すと汚くなって採点しづらいことがあります。

また予習、復習の習慣がほとんどありません。こちらが学習内容を指示しないと自分で勉強できない学習者も多いです。宿題で予習復習をしてきてもらったり、テストをしたり、自分で勉強計画を立てるシートを活用して対応しています。

給与

月収:20万円 (3600万ドン)
かなり生活に余裕がある

現職では給与や待遇は充実しています。家賃、水道代、光熱費、インターネット代は全て会社負担で、通勤の際は専用ドライバーによる送迎があります。また会社で海外旅行保険に加入しているので、日系の病院に無料でかかることができます。

個人で負担するのは、主に食事代や業務外での交通費や交際費くらいかと思います。ベトナムは物価が安いので、厳しく節約しなくてもお給料の半分以上を貯金することができます。比較的時間に余裕があることと将来のために副業を始めましたが、まだ始めたばかりなので、そちらの収入はほとんどありません。

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給与

  • 月収:20万円

月収の内訳

  • 基本給:20万円

待遇

  • 残業代
  • 有給
  • 健康保険
  • 健康診断
  • セミナー・研修費
  • 交通費(職場まで往復送迎付き)
  • 海外旅行保険

雇用形態

  • 常勤講師 *非正規雇用・フルタイム

勤務時間

  • 1日 8時間・週5日勤務   *残業 残業なし

長期休暇中の給与保証

  • 長期休暇がない

仕事のかけもち状況

  • かけもちしている 他1ヶ所

授業形態・勤務スケジュール

スケジュール管理で大変だったことは?

授業以外の空きコマでは授業準備以外に宿題添削、テストの採点等を行っています。優先順位を立てて効率的にこなすことが大切だと感じました。

私の勤めている研修センターでは毎日複数の宿題、テストがあります。特に作文添削は、かなり時間を要します。添削の所要時間は作文の内容やクラスの人数によって違いがありますが、添削と再提出を繰り返し、完成にいたるまで数日かかることもあります。対策として、あらかじめ例文を見せたり、アウトラインを一緒に考えたりしてから作文を書き始める等、工夫しています。

また始めは少し大変ですが、週末に無理のない範囲で時間を取って授業準備を1-2週間先まで終わらせておくようにしています。これによって毎日の添削や採点に十分な時間が取れるようになりました。

授業形態やスケジュールの詳細を読む...

主なクラスの授業形態

  • クラス授業  1クラス10人

学習者層

  • 技術実習生

ベトナムで日本語を教える前に準備すべきだったことは?

添削物やテストなどに押す「チェック済」「よくできました」のようなスタンプは添削、採点の手間が省けるので、一時帰国の際によく購入しています。日本らしいデザインのシールやメッセージカードも学生に喜ばれます。これらは学生が誕生日等のときに活用しています。

また、たまに時間ができたときにする折り紙も喜んでくれます。これまで定番の折り鶴やピカチュウ、ねこをおりました。どれもYouTubeを見れば簡単な作り方が紹介されています。これらは海外ではなかなか売っていないので、重宝しています。

またこちらでフラッシュカードを作ろうとしましたが、画用紙を売っているお店がなかなか見つけられず、画材屋さんでかなり高級な画用紙を買うことになってしまいました。文房具類は日本から持って行ったほうがいいかと思います。

教案作りで参考にしているサイトは?

  • ソコスト
    いらすとやとは少し違うテイストのイラストがあります。種類も豊富です。PPTの表紙、挿絵として使っています。
  • shigureni free illust
    種類は少ないですが、イラストがゆるくてかわいいので気に入っています。 PPTの挿絵として使っています。

教案作りで参考にしている書籍は?

  • イメージでわかる 日本語の助詞 対象: 初級
    助詞を語彙コントロールしながら教えるのが大変で困っていました。 この本は助詞をわかりやすくイラストで表現しているので、学生もイメージをつかみやすいと思います。 語彙や文法のレベル的にみん日初級Ⅰ(赤)が終わってから、補助教材として使っていました。
  • 日本語教師のための初めてのコーチング 対象: 全レベル
    学生から勉強方法についての質問、悩みやモチベーションを維持してもらうために、教師はどのように学生と向き合っていくかが書かれています。学生と個人面談をする際、的確にアドバイスやサポートができるようになりたいと思い、参考にしています。

就職活動

どのように就職活動を行いましたか?

「日本村」や日本語教育学会、IJECの教師募集のサイトで日本語教師の求人を探しました。現職は「JEGS」で見つけ応募しました。応募したのは現職のみ1社で、不採用だったら、また別の教育機関を探そうと思っていました。

就職活動をする際に気を付けたことは、現地の治安はもちろん、その国の物価を調べ、十分に暮らしていけるお給料か、待遇、雇用形態、契約年数と更新可能かどうかに注意して応募する教育機関を選んでいました。

働きやすい職場か見極めるために気をつけたことは、頻繁に募集が出ている教育機関には積極的に応募しないという点です。頻繁に募集が出ているということは、教師がなかなか定着しにくい環境だと思ったからです。また日本語教師仲間を通じて、就職先の評判等を情報収集をしてみるのもいいと思いました。

面接ではどのようなことを聞かれましたか?

「なぜ、現職を辞めて日本語教師か」「学習者のレベルにばらつきがあった場合、どのレベルの学習者が理解したら、次へ進めるか」等を聞かれました。「なぜ現職を辞めて日本語教師か」の質問は面接前から想定していた質問だったので、あらかじめ考えていたことを答えました。

「学習者のレベルにばらつきがあった場合、どのレベルの学習者が理解したら、次へ進めるか」の質問では、面接官に「答えはないから、自分の意見で答えてください」と言っていただいたので、私は「中間レベルの学習者が理解したら、次に進む」と答えました。「理解が遅い学習者に合わせると、理解の早い学習者の時間を奪う。理解の早い学習者が遅い学習者に教えれば、その学習者もアウトプットでき、勉強にもなるため」と自分の意見を付け加え、回答しました。

面接での質問数も少なく、あまり深い質問もされなかったので、評価してもらえたと思う点は模擬授業だと思います。

模擬授業ではどのような課題が与えられましたか?

模擬授業ではみんなの日本語Ⅰ25課「~たら」を担当しました。面接をしてくださった方がそのまま学習者役として模擬授業を聞いてくださいました。25課はもともと教案を作成していたので、修正したり、PPTをブラッシュアップして準備しました。具体的にはドリル練習の量や各グループ動詞がまんべんなく使われているか、イラストは適切か等を再度チェックし、調整を行いました。

学習者役の面接官も協力的で、模擬授業をしているときから、私自身楽しくなってきたので、その楽しく授業を進めていた雰囲気が評価されたのではないかと思っています。

現地で日本語教師の需要はどのくらいありますか?

ベトナムでは以前から日本への技能実習生が多く日本語教師のニーズが高い傾向にありましたが、コロナで渡航ができなくなった際に特に需要が落ち込み、コロナ後需要が戻りきっていないように感じます。また円安の影響を受けて日本語教師の需要はゆるやかに下降気味です。

依然として欠員補充等で日本語教師のニーズは一定数あるかと思いますが、需要が下降気味の中、既に様々な日本語教育機関があるので、現在はやや飽和状態気味かと思われます。

最近、同僚の現地ベトナム人教師や技能実習生の話では、ドイツや韓国の人気が高まっていると聞きました。

就職活動で参考にしたウェブサイトは?

  • 日本村
    同僚もこのサイトをチェックしている人が多いです。掲載数が多いと思います。
  • 国際日本語研修協会(IJEC)
    こちらも規模が大きいサイトです。写真も掲載されている募集もあるのでイメージが湧きやすいです。
  • JEGS
    上記サイトと横断的にチェックしています。幼稚園の求人も多いです。

国選びで重視した点

  • 治安
  • 物価の安さ
  • 日本語教師の需要が高い

現地における日本語教師の需要・将来性

  • 日本語教師が飽和状態である

就職 教育機関選びで特に重視した点

  • 学生の学習意欲の高さ
  • 給与・待遇
  • 雇用形態

応募時に必要とされた資格

  • 日本語教師養成講座420時間修了
  • 日本語教育能力検定試験合格

就職 選考方法

  • 書類
  • 面接
  • 模擬授業

面接方法

  • skypeやzoomなどのインターネットツールを使用して面談

日本語教師全般に関する質問

「日本語教師をやってよかった!」どのような時に実感しますか?

日本語教師になってよかったと思うことは、学習者の成長を感じられたり、私が教えた文型を使って話しかけてくれることです。現職での学習者はみんな意欲的な学生ばかりで、最初はひらがなすら間違えていた学習者も数か月後には「もうこんな難しい漢字を読めるようになったんだ」等、成長の速さに驚かされることが多いです。習った文型を使って一生懸命話しかけてくれるのもとてもうれしいです。

また学習者に現地のことを教えてもらったりするのもおもしろいです。ガイドブックに載っていない観光地や食べ物、ローカルの人々の暮らし、若者の間で流行っていることを知ることができ、新しい発見がたくさんあります。

日本語教師を辞めたいと思ったことはありますか?それはどうしてですか?

日本語教師を辞めたいと思うほどつらかったのは、過酷な労働にも関わらず待遇面や給与面が悪く、苦労が多かった時です。

養成講座を修了したばかりの頃、日本語教師は低賃金で待遇がよくないとは聞いていましたので、求人に応募するときには注意しようと思っていましたが、未経験で採用していただける教育機関はかなり限定されることに気がつきました。それでも飛び込んでみないとわからないと思って、飛び込みましたが、労働時間の長さ、休日の少なさ、給料面、また教師へのサポートが少なく、体力的精神的余裕がなくなってしまい、1社目の日本語学校では長く働くことができませんでした。

しかしながら、この日本語学校での過酷な勤務があったからこそ、たくさんの経験を積むことができたと思っています。それ以降は日本語教師の求人で「経験あり」として応募することができるので、より多くの求人に応募でき、待遇の良い教育機関を見つけやすくなりました。

ベトナムで日本語教師を目指す方へ心構え・アドバイス。

ベトナムはまだまだ不便なことも多いですが、まさに発展途上の国で、街や人々にエネルギーがあふれています。

日本から飛行機で4時間程、時差も2時間で、日本への行き来がしやすいです。物価が安く、比較的治安もいいので、生活がしやすいです。日系のショッピングモールやレストランも増えてきました。ベトナム人の活気とパワーに最初は圧倒されてしまうこともあると思いますが、次第に慣れると思います。

アドバイスという程ものではないですが、ベトナムは日本のように細かいルールやマナーがあまり定着していないので、柔軟な考え方ができるといいのではないかと思います。

今後どのような日本語教師になりたいですか?

学習者一人一人に寄り添える日本語教師になりたいです。
日本語教師とは日本語を教えるだけでなく、学習者が勉強に悩んだとき、成績がなかなか上がらないときにどうすればいい方向に導けるか考えるもの教師の仕事だと考えているからです。

そのためには勉強に悩んだときの考え方やモチベーションのあげ方、自信がなくなった際の励まし方を学ぶ必要があると考えます。現在学習者の性格に合った励まし方で声をかけたり、不安そうにしている学習者に積極的にコミュニケーションを取るように心掛けています。

南・東南アジアの国・地域別 経験談