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海外日本語教師経験談

フランス 南西部 大学(2025年) フランスの大学で日本語教育を行う大変さ

👩 Mさん・ 30歳

総評

  • フランス 南西部 大学
  • 雇用形態:常勤講師 *非正規雇用・フルタイム
  • 期間:1年 (2024~2025年) *現在も勤務中
  • 月収:約30万円 (1,800ユーロ) *現地で生活をするのに十分
  • 勤務時間:2〜4時間 週4日勤務   *残業:残業あり 1ヶ月 計 3時間
  • 日本語教師養成講座420時間修了  一般財団法人 北國新聞文化センター 金沢本部教室 

大学生の頃、フランス語とフランス文学を専門的に学び、在学中に1年間留学する機会にも恵まれました。留学中、日本語を学ぶフランス人学生の会話の授業に話し相手のボランティアとして参加したことをきっかけに、(外国語としての)日本語教育の存在を知り、興味を強く抱くようになりました。自身が当たり前に話せる日本語を習得しようと(留学当時)同世代の学生が頑張る姿に感銘を受けたからです。また、1年間のフランス留学を経て、「フランスで働きたい」という思いも強く持ちました。この時から漠然と、フランスで働く手段として、日本語教師に憧れるようになりました。

現在の職場で働く前は、日本の大学院の修士課程に在籍していました。それ以前は新卒としておよそ3年間都内の企業で働いていました。その期間もフランス生活への思いは消えず、フランスで働くためにも、大学院で学び直そうと思い、企業を退職して大学院へ進学しました。その際の専門もフランス文学です。大学院在学中、ダブルスクールとして420時間養成講座を受けました。また、大学の日本語教育課程の先生に事情を説明して、学部生向け・院生向けそれぞれの授業を履修もしくは聴講させてもらいました。今振り返ると、修士論文執筆に向けた研究以上に日本語教育の勉強をしていた気がします。(笑)修士課程を修了後に、現在の職場に就職しました。

「フランスの大学で日本語教師をするぞ」と大学院時代に意気込んではいたものの、実際どうすればいいか分かりませんでした。初めはフランスの大学リストを見て、日本語学科がある大学に片っ端からコンタクトを取ろうと考えましたが、そうするまでもなく今の職場と出会います。というのも、大学院時代にお世話になった先生ほぼ全員に、「修了後はフランスの大学で日本語教師として働きたい」という意向を伝えていたのが功を奏して、他大学の知り合いの先生に私の話をしてくださったのです。ある一人の先生に興味を持っていただいて、連絡先を教えてもらい、フランスの日本語教育システムの大枠や今勤めている大学のポストについて間接的に紹介してもらいました。その後、修士2年の修了間際に求人が出たので応募し、無事採用され、迷うことなく就職を決めました。専任講師として2年の契約を結び、1年間働いています。

現在は主に大学学部の1、2年生に教えています。フランスならではのエピソードとして、ストライキの多さが挙げられます。ストライキは交通機関に限った話ではなく、教育機関でも起こるのかと驚きました。そして交通機関と異なり、数ヶ月にも及ぶことに更に驚きました。ストライキ中は授業ができず、年間の授業計画に影響が出るため、それをどのように調整するか、成績評価はどうするかなど、教員間での話し合いやすり合わせの作業がとても大変でした。

また、大学の授業の長さが120分と長いことと、そのために授業中に休憩をはさむことにも驚きました。授業デザインも、これまで何度も経験してきた90分ではなく120分へと仕様を合わせる必要があったため、フランスの教育システムに慣れるまで、とにかく調整が大変でした。加えて、授業中におやつやサンドイッチなど軽めに何か食べる学生もいることが、日本人の私からしたらかなり衝撃でした。会話の授業ではほとんどいませんが、作文のような自分一人で作業を進める授業には何人かいました。フランスでは注意の対象とはならない、と先輩の先生に聞いて、特に注意はしなかったのですが、これも受け入れるのに時間を要しました。

日本語教師として苦労したこと、戸惑ったことはありますか?

フランスの大学は、授業の長さが120分であることに加えて、授業と授業の間に休み時間が設定されていません。そのため、授業開始時刻にクラスの全員が揃うことはほぼありません。遅刻者がいる前提なので、授業の冒頭は無きものとするか、復習に充てますが、復習が必要な学生に限って遅刻したり、反対にほぼ定刻に着席している学生は復習がそこまで必要としていなかったりするため、授業のデザインがしづらいです。具体的にはどのタイミングで授業を始めるか、大切なトピックをどのタイミングに盛り込むか、などです。毎回クラスの様子を見つつ、冒頭の5分程度は入室者によって遮られてもいいように、前回までの復習やアイスブレークを入れて、テンポ感が重要な口頭練習、リピート練習は入れないようにしていました。

このバランスの取り方は、試験が近くなるほどに苦労しました。これまでの学習内容、復習内容が多くなるにも関わらず、授業できる時間は限られていて、実際に授業ができる時間はさらに短くなるためです。そのため、普段は日本語で日本語を教える直接法を学生とのコミュニケーションでも用いていますが、時間短縮のためにフランス語を使用して伝達することも試験直前は多くあります。

給与

月収:約30万円 (1,800ユーロ)
現地で生活をするのに十分

日本語教師以外の収入はなく、給料だけで生活していけます。フランスでは家賃や光熱費が高騰しているため、ここをいかに抑えるかが鍵となります。私の場合、家賃は高いのですが自治体から家賃補助(いわゆるCAF)が給付されているため、今のところ問題なく過ごせています。この補助額は収入額と資産額に拠って決まるもので、3ヶ月に一度見直しがあり変動します。そして変動のたびに給付額が変わります。私はというと、初めの3ヶ月は家賃の4割が給付され、その次の3ヶ月は3割、さらに次は2割と減っています。あくまで今のところ問題なく過ごせていますが、今後支給対象から外れる可能性も大いにあり得るため、引越しも視野に入れています。

日本同様、フランスも物価は上昇していますが、基本的な食材は安く手に入れることができます。外食ではなく自炊を心がければ、こちらも問題なく給与の範囲内で生活可能です。ただ、全てに共通して言えることですが、日本のクレジットカードで支払うと為替レートの問題があるため、現地の銀行、私の場合ですとフランスの銀行で口座を開設し、そのカードでユーロで支払うことがマストです。

交通費は半額補助されます。それでも有難いのですが、少し物足りなさを最初感じました。日本の場合、交通費は全額補助の場合が多い印象で、少なくとも私自身がこれまでにアルバイトや社員として働いた勤務先では全て交通費が支給されました。ですが、フランスは一般的に交通機関の定期が安いため、半額負担でも満足しています。例えば私が住んでいる街では、バスとトラム乗り放題の定期券が1ヶ月あたり約6,000円です。その半額が大学から支給され、個人で負担するのは3,000円です。定期券の種類は複数あり、私のものは企業提携割引を受けていますが、割引がない場合は1ヶ月あたり約7,600円です。この場合半額負担だと3,800円ですが、市内全ての交通機関に乗り放題なので、そこまで高くないと感じています。そのため、交通費半額補助について不満はありません。

給与の詳細を読む...

給与

  • 月収:約30万円

月収の内訳

  • 基本給 約30万円

待遇

  • 残業代
  • 交通費
  • 健康保険
  • 現地語学レッスン受講
  • 厚生年金保険

雇用形態

  • 常勤講師 *非正規雇用・フルタイム

勤務時間

  • 2〜4時間 週4日勤務   *残業 残業あり 1ヶ月 計 3時間

長期休暇中の給与保証

  • 仕事はないが、給料は支給される

仕事のかけもち状況

  • かけもちしていない
授業形態やスケジュールの詳細を読む...

主なクラスの授業形態

  • クラス授業  1クラス30人

学習者層

  • 大学生

フランスで日本語を教える前に準備すべきだったことは?

日本語教育とは少しズレるかもしれませんが、日本文化や日本特有のことに関する知識を自分なりに咀嚼してフランス語で説明ができるようになっておくと、授業に深みを持たせられるかもしれないなと思います。例えば「飲み会」や「残業」のような日本の会社のカルチャーは、使用教科書に出てくることもあり、伝えるようにしています。「日本らしい」写真をもっと沢山撮っておけばよかったと心から思います。例えば、自分が住んでいる街の桜や祭りの様子、郷土料理などです。授業はパワーポイントのスライドをメインで使用しているので、その素材に使えるような写真があると便利です。毎回フリー素材検索するのは地味に時間が奪われるので、帰国したら沢山写真を撮ろうと今から決めています。目安としては、使用する教科書(私の場合『みんなの日本語』)に出てくる単語やイラストの写真があるといいと思います。例えば歌舞伎や花見、電車など、写真があれば学習者も必ずスライドに注目してくれます。このようなアイキャッチにもなる写真があると便利だと思います。

教案作りで参考にしているサイトは?

  • Langoal
    「みんなの日本語 ◯課 教案」とネット上で検索すると上位にヒットするサイトです。『みんなの日本語』の各課の教案例やアクティビティ、ワーク、新出語彙のイラストが紹介・掲載されています。私自身、新出語彙のイラストで、フリー素材でいいものが見当たらなかった時や、口答練習の際のスライド素材として使用しています。洗練されたデザインで、学習者も理解しやすそうです。

就職活動

どのように就職活動を行いましたか?

現在の大学の求人はインターネット上で見つけました。各大学の求人情報や、フランス政府の求人情報サイトを主に見ていました。自身の就職活動としては、2ヶ月間で3つの大学に応募しました。現在の大学は最初に見つけた求人であり、唯一採用をいただけた求人です。応募する際に必要だったのはCV(履歴書)とLettre de motivation(カバーレター)で、これをまずは自分で作ってみて、フランス現地の友達にチェックしてもらいアドバイスをもらうようにしていました。履歴書やカバーレターに相応しい文体かどうか、レイアウトは適切かなど、フランス人だからこそ分かる「作法」についてアドバイスをもらいました。今日であれば、フランス人の友人がいなくてもAIを活用すればいいかもしれませんね。

働きやすい職場かどうか考えることなく、出ている求人に採用してもらえるように応募しました。ただ、求人には年間の就業時間が出ているので、そこから逆算することも可能だとは思います。

面接ではどのようなことを聞かれましたか?

自身のこれまでのキャリアについて、3分ほどのプレゼンテーションを求められました。その後、日本語教育経験の有無、大学院での研究状況、今後の進路、渡航時期などについて質問されたように思います。面接時に注意したことは、嘘をつかないことです。当たり前かもしれませんが、誇張しても嘘はつかないことがお互いのためだと思っていたので、わからないことはわからないと言うなど、変なプライドは持たないようにしていました。また、評価してもらえた点について、フランス語能力と社会人経験、外国での日本語教育経験が挙げられると思います。

現地で日本語教師の需要はどのくらいありますか?

日本のアニメと漫画がとにかく人気なことからフランスでは学習者が多いことが推察されます。また、日本文化への興味関心がある人も比較的多いです。日本料理も、どんなに小さな町でも日本食レストランがあることから人気なようです。そのため、日本や日本語への関心が強い人が多いため、日本語教育の需要があると言えるのではないでしょうか。一方で、国立大学で勤務する場合は大学院卒(修士)の学歴があることが望ましいとされます。私の勤めている大学についていうと、語学力が必須という訳ではありませんが、フランス語か英語が話せることが求められているのは確かです。大学によっては、第2言語ではなく専門として日本語を学ぶ日本語学科のみの募集をすることもあり、その場合は英語ではなくフランス語能力が優遇されるでしょう。また、日本語教育のキャリアか資格があるか、日本語教育を大学や大学院で専門的に学んでいたことも評価されます。私の場合、フランス語能力(DELF B2)、養成講座の受講修了と日本語教育能力検定試験合格、海外での日本語教育実習経験を面接でアピールしました。

就職活動で参考にしたウェブサイトは?

  • 検索
    具体的なサイトは覚えていないのですが、フランスで日本語教師として働くなら、フランス語で情報を探せることが強みになります。私は「recrutement enseignant japonais 」で検索をかけていた気がします。そうすると大学なり国なりの募集ページにたどりつきます。

就職活動で有効な手段は?

  • 『紹介(大学の教授)』
    関わる教授には臆せず自分のやりたいことを伝えたらいいと思います。私の経験だと、意外と覚えてくれている先生が多く、「こういうのがあるけど興味ある?」と声をかけられることが、思いのほかありました。

国選びで重視した点

  • その国に親しみがある
  • その国にもともと住んでいた
  • その国の母国語が得意

現地における日本語教師の需要・将来性

  • 人気があり、一定数の学校で求められている

就職 教育機関選びで特に重視した点

  • 知り合いの紹介・誘い
  • 学位や資格を評価してくれる
  • 最初に見つけた求人だった

応募時に必要とされた資格

  • 大学卒業

就職 選考方法

  • 書類
  • 面接

面接方法

  • skypeやzoomなどのインターネットツールを使用して面談

日本語教師全般に関する質問

「日本語教師をやってよかった!」どのような時に実感しますか?

「先生のおかげで日本語が上手になりました」「先生の授業が好きです」と伝えてもらった時は本当に嬉しくて、やっていてよかったと思います。また、個人的に日本語とフランス語の表現方法を対照させることが好きなので、学習者に多くみられる誤用を新たに発見する瞬間がたまらなく好きです。誤用を発見してリストにストックするたびに、日本語教師を選んでよかったと思います。

日本語教師を辞めたいと思ったことはありますか?それはどうしてですか?

日本語教師を辞めたいと思ったことは一度もありません。フランスで働くことが目的で志したので、他の職種でいいのがあれば、と考えることはありますが、辞めたいほど辛いと感じたことは幸いにも一度もありません。就職した大学と現在の同僚に恵まれているのだと思います。

フランスで日本語教師を目指す方へ心構え・アドバイス。

フランスで日本語教師をするなら、「フランス語を話せること」以上に「フランス語の構造を理解すること」が強みになると思います。例えば、フランス語の発音の特徴、文法構造、それらの日本語との違いを知っておくと、学習者が躓きやすいポイントが予め予想できますし、授業デザインもしやすくなります。フランス語を話せる、運用できると言うのももちろん強みになりますが、個人的にはフランス語がどのような言語かを知識として知っておくことの方が、フランスで日本語教師をするならば大切だと思います。

フランスの大学で日本語教師をする場合、年の半分は休みなので、休みの期間に何をするか自分で決められるといいと思います。目標設定をしたり、熱中できる趣味を見つけたり、休み中に退屈しないためにも何かあるといいと思います。休み中帰国したいならそのための予算を組めるなど、そういう能力も必要かもしれません。

今後どのような日本語教師になりたいですか?

目的意識を持って授業に臨めるようになりたいです。授業の目的は学習者がその日の学習内容を理解できることだとは思いますが、それに加えて、自分自身がその日の授業で何を達成したいのか具体的な小さいゴールを設定できるようになりたいです。昨年度までは授業をこなすことで精一杯でしたので、次年度以降は毎回の授業前に小さい目標とそのためのアクションプランをノートに書いて、授業後にその振り返りをする、というルーティンを持とうと思います。例えば「前回の授業ではCさんの発言が少なかったから、次の授業では全体か個人のアクティビティでCさんが発言できる機会を作ろう」とか、「今回のアクティビティは思ったより時間が長引いてしまったから、次の授業ではアクティビティに時間を割けるように、説明の時間を短くしよう、そのために効果的なスライドを作ろう」などです。漫然と授業をしても得られるものは少ないと思うので、日本語教師として成長するためにも、能動的にPDCAを回していきたいと思っています。

もう一点、これは昨年度も意識していたのですが、教員である私がいちばん授業を楽しむ、楽しみにすると言うことも引き続き心がけたいと思っています。理由はシンプルで、その方が学生も楽しいだろうと推察するためです。不機嫌な先生より機嫌のいい先生の方が学生にとってもいいと思うので、自分自身楽しくなるような工夫を随所に散りばめようと思っています。そのためには心の余裕が必要だと思うので、作業を溜め込まず、やれる時にやれることをやる、を意識して仕事を溜めないことを意識して行うつもりです。

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