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海外日本語教師経験談

インド 北部 大学(2019年) 始めるのは簡単でも、続けるのは楽じゃない

👩 Harshitaさん・ 38歳

総評

  • インド 北部 大学
  • 雇用形態:非常勤講師
  • 期間:2.8年 (2017~2019年) *現在も勤務中
  • 月収:3万4,000円 (2万2,000ルピー) *なんとか生活できる
  • 勤務時間:1日1.5時間 週3日勤務   *残業:残業なし

アニメや映画の影響、進学や就職を夢見ているなどの理由から、日本に興味を持っている人は多いです。機会があれば日本語も習ってみたいという、軽い気持ちで始める人が多いです。

毎学期、最初の授業には1人で対処するのが難しいと感じるくらいに多くの学習者が来ます。しかし、そのうちの半数くらいは1か月もしないうちに姿を見せなくなります。「受講生は次第に減る」(だから受講者が多いからと過度に心配しなくて良い)というのは、私がこの仕事を始める前にも現地の日本人教師の方々からも伺いました。

最初の1か月を乗り切った受講者は、ある程度は日本語学習に対して熱意があると感じます。しかし理系の学生という立場で、授業の位置づけも単位の出ない課外授業であることから、専攻の学業に関連する事が優先になり、日本語の授業を遅刻・早退したり欠席したりせざるを得なくなる受講者も多いです。熱意があっても授業に出られない受講者に対するフォローが必要です。試験や休暇の期間中には授業が休みになるので、授業時間の確保にも苦心します。

お給料は、日本の基準と比べたら随分と少ないです。しかし現地の物価に鑑みると、良い方だと思います。特に私の勤め先は、給料体系がきちんと明文化されているので、近隣の教育機関のように基本給から諸費用が天引きされるという事もなく、示されたお給料を満額受け取れるのがありがたいです。

学生が楽しそうに授業に参加しているのを見るにつけて、私もこの仕事が楽しいと感じます。インターンや学会などで日本に渡航した受講者が、授業で扱った表現を使って会話したらちゃんと通じた等と、嬉しそうに報告してくれるのを聞くにつけて、やりがいを感じます。

何より嬉しかったのは、日本に就職した外国人に関するドキュメンタリーで、自分の教え子が生き生きと働いている姿を、偶然見つけた事です。

日本語教師として苦労したこと、戸惑ったことはありますか?

私の受け持つ日本語クラスは、勤務先の大学の学生だけが受講でき、受講料が格安です。学生達は今後の就職に備えて、より多くの資格や講座の修了証明を取りたがっています。

そんな事情から、軽い気持ちで受講登録する人が大勢います。ところが最初の1か月ほどで、半分近くの受講者が姿を消します。これについては、他所の日本語学校でも似た状況と聞いたので、あまり嬉しくはないにしろ、気にしない事にしています。

平仮名と片仮名が覚えられなくてやる気をなくしてしまう受講者が多いように感じます。そこで携帯アプリを紹介し、時や場所を選ばずに手軽に仮名の勉強が出来るようにしました。

受講生の殆どが大学生で、彼らは専攻の勉強がいそがしいです。結果的に、授業を休まざるを得なくなる受講者がいます。そこで、折に触れて既習の項目を復習したり、受講者全体に既習項目を問いかけ、理解度の高い受講者に答えさせるという事もおこなっています。連続で休んだ学生については、授業後に個人的に、重要項目の解説をしています。

受講者の数が非常に多いのも、色々な面で最初は戸惑いました。私は出欠確認も兼ねて、毎回授業の終わりに確認テストをしています。これによって、受講者はその日の授業が理解できたのかすぐに分かります。また、テストに備えて緊張感をもって授業を聞く様になりました。教える側としても、受講者の理解度がすぐに分かって便利です。

給与

月収:3万4,000円 (2万2,000ルピー)
なんとか生活できる

私の場合は、主人の勤務先の大学で教えております。私に対しては手当は一切ありませんが、主人に対して格安で住居提供、家族全員に対する医療費負担があります。大学構内に宿舎があるため、交通費は掛かりません。

インドの大学は、基本的にどこでも、教職員のほとんどは大学内の宿舎で暮らしています。学内は関係者しか入れず、守衛や防犯カメラも多数配置されているので、治安は良いです。私の勤務先の大学構内には病院、スーパー、レストランやカフェ、美容院や理髪店もあります。飲食店は外部の30~50%引きの値段設定です。

私の場合は、日本語教師のお給料だけで生活していくつもりではないので、あまり仕事を入れていません。しかし、食費、住居費、光熱費、使用人達の給料は私の給料でまかなえます。急な出費や遊興費、日印往復の交通費などを考えると、現在の仕事量では足りません。

給与の詳細を読む...

給与

  • 月収:3万4,000円

月収の内訳

  • 時給:1,900円

待遇

  • なし

雇用形態

  • 非常勤講師

勤務時間

  • 1日1.5時間 週3日勤務   *残業 残業なし

学校が定める学生の長期休暇の有無

  • 夏休み:40日・冬休み:40日

長期休暇中の給与保証

  • 給与保証がない
  • 長期休暇中は仕事をしていない

授業形態・勤務スケジュール

スケジュール管理で大変だったことは?

学内で催される行事や宗教行事が日本語の授業と被った、普段使っている教室が使えない、そのような時に授業時間の変更をもとめられることがあります。

受講者ごとに都合がバラバラであり、変更を求められるのが早くても1週間前なので、時間調整が大変です。携帯のチャットアプリで受講生のグループを作り、そこで相談したり多数決を取ったりする事で対処しています。

授業形態やスケジュールの詳細を読む...

主なクラスの授業形態

  • クラス授業  1クラス30~60人

学習者層

  • 大学生
  • 社会人(大学の教職員)

スケジュール

月曜日
  • 18:30~20:00  初級クラスを1コマ
水曜日
  • 18:30~20:00  初級クラスを1コマ
金曜日
  • 18:30~20:00  初級クラスを1コマ
休日
  • 日曜日:1日休みます
  • 火・木・土:教材づくりや教材研究、テストの採点、教案づくりなどを1日平均で2時間ほどします。

インドで日本語を教える前に準備すべきだったことは?

教え始めの頃はいつも、もっと英語を勉強すれば良かったと感じていました。最低限、文法に関係する言葉は一通り英語で言えるようした方が良いです。

日本の事、自分の出身地の事については、できる限り情報収集すると良いです。特にポップカルチャーについては、自分があまり興味無かったとしても、少しは知っておいた方が良いです。

子供向けのひらがな かたかなを覚える本は役に立ちました。福笑いやかるたといった伝承遊びの道具は、日本語を使って遊びながら文化の紹介もできて良いです。かるたはかさばらないので、いつも持ち歩き、時間が余った時に遊びます。

カタカナの五十音表は、現地の人に馴染み深い言葉(例、インドのイ、サリーのサ)を入れたのを拡大して準備しました。

巨大なボールペンや、お寿司の形の消しゴムのような見かけと本来の用途の違うものは、「これは何でしょう」や「OOはXXより大きいです」といった場面で使えます。受講者が楽しんで授業を聞いてくれます。面白グッズは、目的をしっかり吟味した上で積極的に取り入れています。受講者も積極的に授業に参加してくれます。

日本に里帰りするたびに、レストランのメニュー、観光地の地図、イベントのチラシなどを集めています。授業でレアリアとして使えます。

漫画本でフリガナ付きで面白そうな物があれば購入し、希望者に貸し出します。インターネットでも日本の漫画は読めますが、たいていは台詞が英訳されているので、日本語版は重宝します。

教案作りで参考にしているサイトは?

  • 虹色日本語教室
    言語活動を考える時に参考にしています。
  • NIHONGO
    eな 日本語学習に役立つサイトを集めて一覧にしたものです。読む、書く、文法、文化といった項目を指定して、それらを扱ったサイトを検索することができます。こちらで検索したサイトを利用してワークシートを作ったり、授業のネタにするほか、受講者の学習支援サイトとして紹介することもあります。
  • Learning and Teaching Japanese
    日本語の基礎が英語で説明されています。文化紹介もあります。授業で文法項目を英語で説明する時に、こちらのサイトを参考にします。

教案作りで参考にしている書籍は?

  • 直接法で教える日本語 対象: 初級
    媒介語を使わず、日本語だけで教える方法が書いてあります。この内容をそのまま実践しているわけでは無いですが、新出表現の導入方法、授業の展開を考える時、教具を準備する時にとても参考になります。 この本は、教える時の言葉の選び方、説明の順序、教師のジェスチャーなど、とても吟味されて書かれています。「ヒント」の項目を参考に、応用練習の内容を考えることもあります。
  • まるごと 日本のことばと文化 入門 A1 かつどう 対象: 初級・中級
    ロールプレイをする時によく利用しています。日常生活で出くわす場面やすぐ使えそうな表現が豊富なので、サバイバルジャパニーズを必要としている学習者にはとても役に立つ教材です。
  • みんなの日本語初級I 第2版 教え方の手引き 対象: 初級
    授業の大まかな流れを掴むために、教案作成の時にまず最初に目を通しています。教える時の留意点は教案にも書き込んで、忘れないようにしています。

就職活動

この大学で働くきっかけ・決め手は?

自宅から近く通勤に便利だからです。また、この大学は理系学生が多く、日本の企業からも注目されています。もし日本語の授業をすれば、今後日本への留学や就職を目指す学生の増加が見込まれ、やりがいも大きそうなのでこちらを選びました。

面接ではどのようなことを聞かれましたか?

何故その大学で日本語を教えたいのか
どのようなテキストを使ってどのような事を教えるのか。具体的には、資格試験の対策講座なのか、会話か文法のどちらが主体なのか。教員免許を持っているか、日本語を教えるためにどのような勉強をしたのか等です。
日本語教師を雇うのは私が初めてだったので、何でも気になる事を質問したという感じでした。

現地で日本語教師の需要はどのくらいありますか?

日本の便利な生活と高い給料に憧れ、日本で働きたいと思う人は多いです。日本の大学、大学院に進学を考えて居る人も多いです。

日印政府間では2017年の首脳会談で、「1000人の日本語教師の研修」と「100の高等教育機関での日本語副専攻コースの設置に向けた努力」などが締結されました。教育カリキュラムの1つであるCBSE(The Central Board of Secondary Education、中央中等教育委員会)では6年生からの外国語選択の1つに日本語を導入しました。

一方、教育現場では日本人の日本語教師は不足しています。デリーですら人員が足りず、特に日本語教師としての資格を持っていなくても、日本人駐在員の家族が語学学校や大学の日本語専攻の授業の一部を受け持っている例があります。地方の教育機関では、日本人の教師はごく少数です。

この大学で求められる資質や資格、経歴や語学レベルは?

現地人の先生の場合、最低限N3取得済みである事が採用時の目安になっているようです。初級クラスならN3レベルの先生が受け持たれている場合も多いです。

授業の時には、教え方によっては英語は必要ないです。しかし現地で暮らしていくには、英語は必須です。資格として取得必要はないですが、日常会話で最低限の意思の疎通が図れなければ暮らしていけません。

就職活動で参考にしたウェブサイトは?

就職活動で有効な手段は?

  • 『既に日本語教師として働いている人からの声掛け』
    誰か日本語を教えられる人を紹介して欲しい、という感じで声がかかる。

国選びで重視した点

  • 夫の勤務地がインドだったから

現地における日本語教師の需要・将来性

  • 人気があり、一定数の学校で求められている
  • 日本語教師が不足しています。地方都市では、日本語教師がいないために語学学校に通えない学習者が多い印象をうけます。

就職 教育機関選びで特に重視した点

  • 給与・待遇
  • 通勤時間

応募時に必要とされた資格

  • なし

就職 選考方法

  • 面接

面接方法

  • 現地にて実施

日本語教師全般に関する質問

どのような経緯で日本語教師を目指しましたか?

学生時代にも、ゼミ仲間の外国人に日本語を教えたことがあり、インドでも日本語を教えたり日本の文化を紹介したりしたいと思っていました。

「日本語教師をやってよかった!」どのような時に実感しますか?

私が教えた学生が、日本と関わる事柄で活躍してくれると、この仕事に一層のやりがいを感じます。また研修や学会発表で日本に行ってきた生徒が、授業で習った表現を使ってこんな事ができたと報告してくれると嬉しいです。

中でも一番嬉しかったのは、自分の教え子が日本のテレビ番組にでてきたことです。日本で働くインド人を扱ったドキュメンタリーだったのですが、私の教えた学生が生き生きと活動している様子が映っていました。びっくりすると同時に、彼の活躍に私も少しは力添えできたと思うと嬉しくて、これからも一層頑張って日本語教師の仕事をつづけようと思いました。

学生のみなさんへ 進路についてアドバイス。

専攻または副専攻で日本語教育を履修、又は日本語教育養成課程修了するのが、一番確実だと思います。

社会人のみなさんへ 進路についてアドバイス。

インドは、大都会を除けば日本人の日本語教師はごく少数なので、養成講座修了や日本語教育能力試験の合格が無くても、雇ってもらえる事はあります。

でも母国語として日本語を習得するのと、外国語として習うのは違いますので、国語が得意だったというだけでは、上手く教えられないと感じました。私の場合は、日本語教育能力試験のための勉強で得た知識が、授業を行う上で役に立っています。

一番手っ取り早いのは、養成講座に通う事だと思います。

インドで日本語教師を目指す方へ心構え・アドバイス。

今インドでは、日本語学習者を増やして、日印間のビジネスや人的交流を拡大しようとしています。日本でも高度人材、IT人材としてのインド人に注目しています。このようなインド人達に日本語を教えることは、とても有意義でやりがいのある仕事です。日本語教師はインドで今特に必要とされている人材です。

もちろん、インドでの生活は日本と比べたら不便な事の連続です。気候条件も厳しいです。それでも、自分が教えた学生が日本と関わるところで活躍してくれるのは、感慨深いものがあります。ぜひインドで貴方の能力を活かしてください。

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