元日本語教師による
日本語教師の実態レポート

日本語教師になるにはどうすればいいの?資格はいるの?どんな風に教えるの?
具体的な経験を交えながら、教師の仕事について
"元教師"が実態をお伝えします。

シンガポールの高等教育機関 経験談

多言語の国シンガポールに魅了されて

公開:2018/2/20

エマ(女性・43歳) 
日本語教師歴 19年 (1998年~2017年)
*現在も日本語教師として就労中
資格・課程
  • 日本語教育能力検定試験
  • TOEFL iBT86点
  • 大学院 教育専攻
  • 大学 日本語教育副専攻
  • アルク NAFL 日本語教師養成プログラム〈通信講座〉
シンガポールの高等教育機関
経験詳細
  • 地域:シンガポール
  • 月収:43万円(6,700シンガポールドル)
    現地で生活をするのに十分
  • 専任講師(正規雇用)
  • 7年(2003年~2010年)
    *現在は退職

聞いたことがない独特のリズムを持った英語ーシングリッシュを、華語(中国語)とコードスイッチしながらマシンガンのように話すシンガポール人の友人にたまらなくほれ込んでしまったのが、シンガポールという国に最初に興味を持ったきっかけでした。「あなたの頭の中は一体どうなっているの」と何度も質問攻めし、またシンガポール人たちが集まる会食の席など、言葉が分からないのに参加し、その何とも言えない不思議な言語環境に身を置き、ただただ聞き惚れていました。

そのうちに、シンガポールを実際に訪問するようになり、そのうちに、働くようになり、永住権も取得して今に至ります。とにかく言葉に興味がある人間には、面白い国だと思います。そして、そのようなバックボーンを持つ学生たちに接するのも、興味を掻き立てられます。教室は、シンガポールの縮図通りで、中華系、マレー系、インド系の学生たちがそろいますが、日本語は、中華系の学生たちにより人気があります。非漢字圏の学習者には、文字学習のディスアドバンテージがあるので、悪い成績をとりたくない、と敬遠されることもしばしばあります。

教室での共通語も英語で、講義はもちろんのこと、学生を褒めるのも叱るのも、英語でしなければなりません。とにかく、そんな状況が面白くて仕方がなかったのですが、日本語教育のレベルは、初級中心のため、かなを教え、「こそあど」と「買い物」を教えたら、コースが終了してしまうような教授環境に次第に飽きを覚え、初級に偏りすぎているシンガポールの日本語教育に埋没すると、万が一日本帰国が決まった際に、中上級が中心になる日本では通用しないのではないかと、焦りを覚え始めました。お給料も大変よく、日本帰国で再会する日本語教師仲間から、「高給取りなのに、正気か」と止められましたが、結局、退職しました。

Q:現地で苦労した事、戸惑った事はありますか?

この教育機関で最も苦労したことは、学生管理でした。大半の学生は、真面目に勉強するのですが、一部のコースで、学生の学力が著しく低かったり、勉強する姿勢そのものがなかったりする学生たちがいて、その学生たちをいかに真面目に勉強させるかというのが、悩みどころでした。

例えば、クラス中に携帯電話が鳴ると、その場で出てしまったり、休み時間後に、なかなか戻ってこない学生が多いのに驚きました。そんなこちらにしては「当たり前」の常識が、共有されていませんでした。学生指導は、当然英語ですが、いかに胸に響く指導ができるかが左右します。言い回しを四六時中考え、難しいケースでは、下書きまで作って対応しました。

Q:なぜこの教育機関を退職しましたか?

この機関の日本語コースは、超初級で、かな、こそあど、買い物の表現を教えたら、コースが終了します。だんだん、超初級に偏っているコースを繰り返すことが苦痛になってきました。また、他機関に移籍したり、日本に帰国して教える場合、中上級の指導がこのままではできなくなると思い、退職を決意しました。

待遇は非常に良かったので、他国や日本で教えている日本語教師仲間からは、もったいない、と言われましたが、職業的な成長の機会を逸するほうが長い目で見たときに恐ろしいことだと思いましたので、決断しました。

給与・待遇

月収 月収:43万円
月収内訳
  • 基本給:43万円
  • CPF【厚生年金のようなもの】:63,000円
基本労働時間 1日8時間 週5日勤務
残業(時間外労働) イベント時土曜日出勤
待遇
  • 有給休暇
  • 賞与 年間65万円 一律1.5カ月分の給与+パフォーマンスボーナス
  • 保険(外来1回につき10ドル請求可)
  • 健康診断
  • 現地語学レッスン受講
  • 専門に関する外部コース受講費補助
  • 福利厚生手当
教育機関が
用意してくれたもの
なし
クラスの長期休暇 年間有給:40日 
クラスの長期休暇中の
給与保証
長期休暇中は別の仕事をしている

日本円にしてみると、かなり高給にうつりますが、この機関で働いていた時、不動産市場が高騰しており、同じ物件で、家賃が契約更新時に倍になりました。(同じ物件で、9万円だった家賃が、18万円に上昇)。引っ越しする時間がなかったので、契約更新前は一人で賃貸していましたが、倍額になってからはルームメイトを入れました。不動産以外もシンガポールは物価が高く、お金が足りないということはありませんでしたが、たくさんあるとは思えませんでした。不動産がどんどん高くなっている時期だったので、いつも不安でした。

Q:現地における他の日本語学校と比較し、違いは感じますか?

給与に関しては、契約書で機密事項として扱われているため、あまり情報がないのが正直なところです。仲間内でシェアするところによれば、民間の日本語学校などは、給与はあまり高くない傾向にあります。高等教育機関や大学はより高い給与が望めますが、ポジションの空きがあまり出ません。ポジションの空きが出るか知るためには、普段からの人脈づくり、ネットワークづくりが必要でしょう。

授業形態・勤務スケジュール

授業形態 クラス授業:1クラス25人
学習者の年代 17~20歳(シンガポール独自の教育枠のため、このような記述になります。)
1日の時間割 月曜日
  • 8:00~10:00  
    初級
  • 10:00~12:00  
    初級
火曜日
  • 10:00~12:00  
    初級2
  • 14:00~16:00  
    初級2
水曜日
  • クラスなし、授業の準備、コーディネート、教材、テスト作成など
木曜日
  • 10:00~12:00  
    初級3
  • 14:00~16:00  
    初級1
金曜日
  • クラスなし、会議、授業の準備、コーディネート、教材、テスト作成など
休日
  • 土曜日:イベント、土曜日の特別授業がたまに入ることがあるが、たいていは休息日。家事や、スポーツなど。自分自身の勉強や研究。
  • 日曜日:仕事が入ることは皆無。家事やスポーツ、友人と会ったり、マレーシアなど近隣に遊びに行った。自分自身の勉強や研究。

Q:日々のスケジュール管理で、ここは大変だった!と感じた点はどこですか?

教えるだけの立場から、コースの責任者になり、そのコースが複数になり、そのうちに、後輩を教える立場になったりして、日本語学科での責任が重くなり、業務がどんどん増えていきました。また、他学科の教員と日本語教育とは全く関係のないプロジェクトを任されたりして、ネイティブ並みの英語力が瞬時に求められるので、私にはとても負担でした。週末に必死で英語の勉強をし、なんとかこなしました。

Q:教案作りで参考にしているサイトや書籍があれば、ぜひお聞かせください。

参考になるサイト
  • アルク
    英文を書くときに一番頼りにしたのが、アルクの「英辞郎on the web」でした。常に、一番上にブックマークされていました。例文が豊富なので、とても重宝しました。
  • 日本語能力試験
    日本語能力試験対策のクラスで紹介、使用しました。
  • みんなの教材サイト
    主にイラストを探すのに、よく利用しました。
参考になる書籍
  • NAFL日本語教師養成プログラム    
    対象者:全レベル
    物理的に持って行ける書籍が限られている中で、常に帯同しているのがかつて受講したアルクの通信講座の教科書でした。日本語教育のあらゆる分野が網羅されているので、仕事上での疑問や悩みに対する答えが必ずどこかにあります。元は検定試験の合格のために購入した通信講座でしたが、仕事にも十分応用可能でした。
  • みんなの日本語 初級I翻訳・文法解説 英語版    
    対象者:初級
    教材は、「みんなの日本語」ではなかったのですが、授業のためのハンドアウトに載せる文法説明や、実際に授業で文法説明をするときの言い回しなどは、みんなの日本語の文法解説書をかなり参考にして作成していました。
  • みんなの日本語初級〈1〉標準問題集    
    対象者:初級
    上述したとおり、教材は、「みんなの日本語」ではなかったのですが、標準問題集は、学生の宿題プリントや、コース終了後の試験作成の際に、参考にしていました。

Q:現地に行く前に、準備しておくと良いものについて教えて下さい。

クラスで買い物の授業をするときに、本物のお金を使ってするととても盛り上がったので、100均で売っているコインケースに全ての日本のコインを詰めて持っていました。(なくならないように、コインケースに管理表を貼っておきました。)おもちゃ屋さんにも売っていますが、おもちゃを使うより、格段に盛り上がりますので絶対お勧めです。普段眠そうな学生も、この時ばかりはきらきらした目でお金を握りしめています。

キャラ弁の作り方をワークショップで頼まれたことがあり、その時に、キャラクターの型などのキャラ弁グッズは日本にしかなかったので、送ってもらいました。
シンガポールには紀伊国屋があるので、案外、折り紙などは手に入ります。今はDAISOなど日本の100円ショップも日本と同じ品ぞろえであるので、何でも手に入ります。

就職活動

国選びで重視した点
  • その国の母国語が得意
  • 渡航経験があった
  • シンガポールが好きだった
現地における
日本語教師の需要
人気があり、一定数の学校で求められている
教育機関選びで
重視した点
  • 給与(待遇)
  • 必須資格
  • 学校の規模
応募時に
必要とされた資格
  • 大学 日本語教育主・副専攻
  • 教授経験3年以上・英語力
選考方法
  • 書類
  • 面接
面接地 海外 (現地)

Q:現地で、日本語教育の需要はありますか?

シンガポールでの日本語教育の需要は、高いと思います。まず、高等教育機関、大学では、日本語は外国語の中で一番人気が高いです。教育省の語学センターで行われている成績上位者の中学生に対する選抜外国語に日本語も含まれています。民間の日本語学校も狭い国土ながら結構数があり、主に社会人対象の日本語教育が行われています。

継承教育や補習校での需要もありますが、それらは、日本語教師が求められているというより、小学校の教員などが中心になって学校運営がされています。ただ、年々就労ビザが取りにくくなっているので、ビザが必要な日本人日本語教師には厳しい状況になりつつあります。

Q:面接ではどのようなことを聞かれましたか?

一次面接は、直属の上司による面接でした。今までの教授体験、専門について、説明を求められただけで、模擬授業などは特にありませんでした。シンガポールには、どれぐらいいる予定なのか、シンガポール料理で何が好きか、など、おしゃべりが中心で、それ以外に質問があるか、とのことだったので、使用教材、業務内容、給与体系について単刀直入に聞きましたが、どれも親切に教えてもらえました。

二次面接(最終面接)は、学部のトップの方による面接で、まったく業務に関係ない小話で盛り上がりました。たぶん、内定を受けていて、あとは、形式ばかりの顔合わせなんだと思います。日本に旅行に行くけれど、どのホテルがいいか、絶対行ったほうがいいところは、どこか、など聞かれました。今思えば、語学力チェックと、コミュニケーション能力をチェックされていたかもしれません。

Q:強みになる資格や職歴、資質や語学レベルはありますか?

シンガポールは厳格な学歴社会なので、学士がないと、教育分野はそもそもビザが下りません。修士は非常に強力です。高等教育機関で教えるなら修士は取っておきたいところです。

日本では必須の主専攻、副専攻、または日本語教育能力検定試験などは、一応申告はしますが、そこまで重要視されません。それよりも、英語で指導ができることが重要視されます。そのため、日本の大学を卒業した人よりも、アメリカ、イギリスの大学や大学院で教育や言語学の修士号を持っている人が採用されることも多いと感じます。

とは言っても、日本語教師としてきちんと訓練を受けていない人は、実際はなかなか教えられず、あまり長続きしません。要は、日本語教育の確固たる専門知識と経験に、英語の語学力が備わっていたら、かなり有望だと言えます。

Q:その国の日本語教師に関する求人情報は、どこで得ましたか?

求人情報のサイト名
その他求人情報
ストレートタイムズ:現地の新聞の求人に出ています。現地にいないと入手は難しいですが、ウェブサイトもあります。

Q:この教育機関で勤務すると決めた決め手、きっかけを教えて下さい。

イエローページを使って、シンガポール中の日本語学校や、高等教育機関のウェブサイトなどを全てリストアップしていました。そして、順次その学校のウェブサイトをチェックしていた時に、求人を見つけて、応募したのが最初のきっかけです。複数応募して、複数合格しましたが、その中で、一番条件がいい学校を選びました。コツは、やはり、直接その学校のウェブサイトをくまなくチェックすることだと思いました。

日本語教師に関する全般の質問

Q:どのような経緯で日本語教師を目指しましたか?

外国語を学ぶことが好きなため、日本語教師なら外国で働くチャンスがあるのではないかという安易な理由からスタートしましたが、初めて就職した学校で、真面目に学ぶ学生、情熱溢れる同僚や先輩たちに感化され、自らの流されるような生き方に疑問を持ち始め、そのうちに、目的をもって日本語教育に真剣に取り組もうと思うようになりました。長く働けるよう、日本語教育能力検定試験の合格、修士号の取得、英語の習得など、少しずつ、スキルアップしながら、キャリアアップを目指しました。

Q:日本語教師をやってよかった!と、どんな時に実感しますか?

添付写真にある通り、授業の最後の日に、ホワイトボードに書かれた「先生、ありがとう。たのしかったです。」というメッセージ。消すのがもったいなくて、写真を撮って、そのまま消さずにとっておきました。(お掃除のおばちゃんに無残に消されてしまいましたが。)

初級文型だけでも、学生たちが一生懸命に、気持ちを伝えようとしてくれるのが、本当に嬉しかったです。言葉を教えることは、心を伝える道を開くことなんだと痛感します。

Q:日本語教師を辞めたいと思ったことはありますか?

日本語教師を辞めたくなったことは、何度もあります。駆け出しのころは、お給料が安いのに激務で、教案作成のために、ほとんど睡眠時間がまともにとれない時が続いたとき。海外で日本語教師になったころは、慣れない環境での体調不良や精神不安、心許せる人がいない孤独感に苦しんだ時。安定した仕事につけても、今度は自分のキャパ以上の仕事を任されて、ストレスになったとき。同僚との関係がこじれ、どう頑張っても修復できないと悟った時。

でも、なんだか、全部乗り越えて、というか、やり過ごしてきてしまい、まだ日本語教師です。お給料が安くても、頑張れば、いい仕事はありました。教案は、そのうちに、ストックがたまって、そこまで時間をかけなくても書けるようになりました。海外の環境は、3年もたてば、慣れ切って、体調不安も精神不安も自然解消。心許せる人も時間とともにできてくる。職場の敵とは、いかに付き合わないかという距離を学び、それより強力な味方を見つけました。

今は家庭とのワークバランスがうまくとれなくて、辞めたくなっています。どうやって乗り越えるんでしょうね。楽しみです。

Q:日本語教師になる為の進路についてアドバイスをください。

【学生の方へ】
学生時代に最低半年は海外で語学留学を経験してください。外国語を学ぶ苦労、異文化で生活する心細さ、不便さを体に叩き込んでほしいと思います。その経験が、日本語教師になってから、外国人学生を理解する礎になると思います。

【社会人の方へ】
多分、ほとんどの方が、最初は他業種から日本語教育への転職で、給料が下がると思います。ただし、その後、頑張り次第では、同等か、またはそれ以上の給与水準になることもあり、ご家族を養っている人もいます。キャリアアップのための勉強をがんばって続けて下さい。(私も頑張っています。)

Q:日本語教師を目指す方へ、アドバイスをください。

2017年のシンガポールのビザ取得はさらに厳しくなっているのが現実です。また、日本語教育も、韓国語教育の台頭、外国語コースの縮小など、10年前とは随分様相が異なってきていると言えます。しかし、これは、何もシンガポールだけのことではなく、アメリカや中国など他国も同じで、世界的な潮流であると言えます。それでも活躍している日本語教師たちは一定数いるのです。

活躍している日本語教師は、何が違うのか、といつも考えます。きっと運もよかったでしょう。学歴もあり、語学力もあり、適応力もある人なのでしょう。でも、それだけではありません。活躍している日本語教師にあるのは、ひとえに「情熱」だと思います。

厳しいけれど、仕事はあると思います。徹底したリサーチで就職情報をモニターし、諦めずに情熱の炎を消さずに、チャンスの到来を待ち構えてください。

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